ただおしゃべりをしていただけなのに、急にどうしてそんなこ とになったのかと問われれば、アリスが言い出したから。だっ て、この三人の中でそんなこと言い出すのって彼女くらい。
「いい? せーの、で表にするのよ」
アリスは得意げにマジックを手の中でくるくると回しながら言 った。その隣では、エドワードがしかめっ面で手にした画用紙 を見つめている。そんな表情をしたって、エドワードのことだ からどうせ何だってできてしまうに決まっている。見らずとも 、出来の良さはわかりきってる。
それに比べて、あたしはどう?
あたしは自分の画用紙を覗き込んで、まあこんなものかしらと 顔を上げた。
「よかった、描けて……」
そっと呟くと、アリスがふふっと笑った。
「あらベラ。そんなに自信がなかったの?」
「うーん……あまり絵って描く機会ないから」
「問題はそれだけじゃないと思うな。絵描き歌で絵なんて描い たことがないだろ」
エドワードは肩をすくめてみせた。絵描き歌だからってだけじ ゃないの。そのキャラクター自体さえもあまり馴染みがないっ ていうのも一つの問題。
「グダグダ言ってもどうしようもないわ。お遊びなんだからい いじゃない。さあ行くわよ。せーの!」
アリスの掛け声にあわせて、三人は同時に画用紙を表に向けた 。
「うわ……」
あたしは思わず感嘆の声をあげてしまった。二人とも、さすが だ。エドワードは当然のように本物そっくりに描けているし、
アリスは少しデフォルメされた感じではあるが、それでも元の
キャラクターの特徴をうまく取り込んでいる。
ふと気がつくと、アリスがあたしを凝視していた。
「アリス、どうかした?」
「…………………………ねえ、ベラ。聞いてもいいかしら」
たっぷりと間をあけて、アリスは言った。何をそんなにためら ったのか、あたしにはよくわからないけれど、頷いた。
「まったく見たことがないわけではないでしょう?」
アリスは肩を小刻みに震わせている。
「うん、それに絵描き歌の前にもお手本の絵を見たじゃない」
その上で、絵描き歌に挑戦したのだ。それを今更聞くこと?
そんなことを考えていると、肩を震わせていたアリスが、ぷっ と吹き出した。あとは転がるように彼女の澄んだ笑い声が響く 。
「ふっ……ごめ、ベラ。でもそれ……笑わないほうが……っ、 おかしいわ」
震える身体を押さえながら、途切れ途切れの言葉が涙目で紡が れる。どうにかして我慢しようとしてくれているようだが、押 さえられていない。こんなにも笑う彼女の姿なんて、初めて見 た。
「……おかしいかしら」
あたしは画用紙に視線を落とした。自分では、なかなか描けた ものかなとは思っているのだ。
アリスがここまで笑い転げることに少しだけ傷つく心はあるけ れど、悪気があるようには見えないし、不思議と腹は立たない 。アリスはそんな存在だ。
「ごめん、ベラ……でも、たえられ……ないっ」
アリスはその場に倒れこむようにして笑い出してしまった。
あたしはどう反応すべきか困り、首を傾げる。すると、エドワ ードがあたしの肩に手を伸ばし、ぐっと引き寄せてきた。
「アリス! 何を言ってるんだ。こんな芸術作品はないだろ」
突如会話に入り込んできたエドワードは、自分の描いたお手本 のような絵を放り出し、あたしの描いた絵を手に取った。
「僕は今、打ち震えているんだ。こんなに素晴らしい絵画に出 会ったことはない」
いつも恥ずかしげもないセリフを並び立てるエドワードである が、今回のこれはさすがに行き過ぎのように思えてならない。
いくらなんでも、そんな大袈裟な。
「あなたにとっては、ベラに出会えたことが素晴らしいことで あって、それの延長線上にその褒め言葉があるんじゃないかと 邪推してしまうわ」
あたしの想いを代弁するように呆れ混じりに言うアリスに、エ ドワードは「ああ、そうか」と納得するように頷いた。
「そうかもしれない。ベラに出会えたことは、僕が生きてきた 中でもっとも素晴らしいことだ。でも、このピカソにも似た、 見る者の真価が問われる、一歩間違えれば駄作と決められてし まうような絵。素晴らしい」
ぺらぺらとよく回る口は、エドワードにしてはとても興奮して いるようで、あたしはピカソのようだといわれたこの絵を見て 、苦い笑いがこみ上げてきた。見る者の真価が問われるって、 褒められているのかよくわからない。
いまだ一人で喋り続けるエドワードの話から耳を塞ぐようにア リスと目を合わせると、肩をすくめられた。
「ベラ、あなた愛されてるわね」
「……ありがとう。でも、もう絵を描く遊びはよしたほうがい いかも」
あたしが提案をすると、アリスはそうね、と納得し、再びぷっ と吹き出した。


[牙茶さんにいただいた黄昏ss]

この日記絵↓を描いたところ、牙茶さんが素敵なssをつけてくださいました!

アレです。
ス●ーの絵描き歌のアレです。
ベラは絵が下手だとかわいいですよね!
エドワードが微妙にうざキャラになっていて笑いました。
恋は盲目!
万年トワイライト飢えの私にこんな素敵なssをありがとうございました!